どのような財産が遺留分の対象となるか

文責:弁護士 小島 隆太郎

最終更新日:2025年05月22日

1 遺留分の対象財産

 遺留分とは、一部の相続人において、被相続人が遺言によって相続方法等を指定したとしても、保障される持分のことをいいます。

 つまり、2人の子どもの相続人がいる父親がどちらか一方の子にすべての財産を相続させる遺言書を書いたとしても、もう一方の子にはその相続を受けた方の子に遺留分があることを主張して、一定の金額を請求することができます。

 

 この時に、問題になるのが、その遺留分を計算する上で、対象となる財産です。

 

 対象となる財産は、①相続開始時の積極財産、②相続人に対する生前贈与、③第三者に対する生前贈与、④相続開始時の債務、⑤その他特殊な考慮事項があります。

2 ①相続開始時の積極財産について

 被相続人が相続時に有していた積極財産は、遺留分の計算の基礎に含まれます(民法1043条1項)。

 このとき、遺言書の中に含まれた遺贈(相続分の特定ではなく、誰かに相続財産のうち何か(割合も含む)を与えるとしているもの)がある場合、それを含んで「相続開始時の積極財産」と考えるのが一般的である。

 これらについて、評価の基準時は、原則として相続開始時の評価額で計算を行います。

 また、条件付権利又は存続期間不明な権利についても、遺留分計算の基礎に含まれます。

 一方で、権利の価格など、評価が難しいものについては、家庭裁判所の選任した鑑定人の評価の従って決まることもあります。

3 ②生前贈与について

 被相続人が贈与者となる贈与契約が相続開始前の1年間の間に行われていた場合は、その贈与財産は遺留分算定の基礎財産となります(民法1044条1項前段)。

 贈与契約締結とは、被相続人が何かの物・権利について誰かに対し、「贈与する」という意思表示をして、これを受贈者が「受け取ります」と意思の合致があったことをいいますので、書面の有無やその日付は問いません。

 また、ここでいう「贈与」とは、すべての無償処分をさしますので、「あげる」以外にも、一般財団法人への財産拠出や信託設定、無償の債務(一部)免除も含まれます。

 ただし、被相続人及び受贈者が遺留分権利者に損害を加えるべき事実(贈与財産が残余財産を超えるなど)を知って行った贈与については、1年間の制限なく遺留分の対象となります。

4 ③相続人に対する生前贈与について

 上記の②は、受贈者が誰でも対象となりますが、相続人に対する生前贈与の場合は、②の条件が変わり、(A)婚姻若しくは養子縁組のため又は政権の資本として受けた贈与で、かつ(B)相続開始前の10年間に贈与契約が行われていた場合は、その贈与財産については遺留分算定の基礎財産となります。

 つまり、遺産分割をする際に考慮される、特別受益と評価される相続財産についても、考慮される期間を延長して遺留分の対象となるということです(民法1044条2項、3項)。

 また、特別受益の場合は、被相続人が持戻し免除の意思表示をすれば遺産分割の対象としないことも可能ですが、遺留分の計算の対象となることについては、被相続人のそのような意思表示は考慮されません。

5 ④相続開始時の債務について

 ①とは反対の被相続人が相続開始時に有していた負の財産である債務(借金、ローン、税金など)については、上記のような正の財産から控除するために考慮されます。

 このとき、保証債務の取り扱いが問題となることがあります。

 保証債務については、一般的に、相続開始時債務の履行が不確実性から、主たる債務者が無資力で求償権の行使による填補の実効性がない(保証人の負担となることが確実となっている)場合に限って、被相続人の財産から控除すれば足りると考えられています。

6 ⑤その他特殊な考慮事項について

 条文上の遺留分に対象財産は上記のとおりですが、上記以外にも遺留分の対象となる財産が存在する場合があります。

 たとえば、生命保険金です。

 被相続人が生命保険金の保険料と支払ったものは贈与ではないため、本来、生命保険金は遺留分の対象とはなりません。

 しかし、その支払った保険料が過大であったり、相続開始前に不自然に加入していた生命保険については、その受取人の特別受益として考慮される場合があり、そのような生命保険については、遺留分の対象となる場合があります。

 この考慮事項については、相続財産全体の割合等により影響を受けるため、不安な場合は専門家に相談されることをお勧めいたします。

PageTop